
BORDER5優秀マンション紹介:「ヴィルフォーレ稲毛」理事会の挑戦 Part1 – コミュニティ活動の進化
今回は、マンションの評価制度BORDER5でほぼ満点の高評価を獲得したマンションの理事会活動についてアンバサダーの應田がインタビュー形式で2回にわけてご紹介します。
BORDER5は、管理組合の運営状態を4つの部門(40項目)にわけて評価され、高得点は持続可能性、住民参加、革新的な取り組みが揃った模範的なケースに認定が与えられます。他の評価制度とは異なり、コミュニティ&住み心地力と防災力という理事会側で人的リソースの大きな割り当てが必要な項目に全体の半分の配点がなされているのが特徴です。
今回取り上げるのは、千葉市稲毛区にある築35年の大規模マンション「ヴィルフォーレ稲毛」。総戸数660戸という規模ながら、理事会の工夫で活気あるコミュニティを築いています。
先日、コミュニティホールで開催された弦楽四重奏のコンサートを取材しました。イベント終了後、櫻井理事長と佐々木前理事長にインタビューをお願いしました。Part1では、コミュニティ活動を中心に、理事会の熱い思いをお伝えします。築年数を経たマンションが、どのように住民のつながりを強めているのか、ぜひご覧ください。
ヴィルフォーレ稲毛のコミュニティ活動
應田:
今日のコンサートは本当に素晴らしいものでした。
プロの弦楽四重奏団「アルコ」を招いて、午前と午後の2部制で合計240人以上が参加されたそうですね。ホールが超満員になるほどの盛り上がりでした。このイベントはどのように企画されたのでしょうか?
櫻井理事長:
このコンサートは、ヴィルフォーレ稲毛の環境コミュニティ活動の中心的なものです。
私たちのマンションのコミュニティに関する活動は35年を迎えていますが、以前は高齢者の方々を集めてお弁当を配りながら集まるスタイルを長く続けていました。ただ、コロナ禍で中断した後、再開する際に考え直したんです。
お弁当中心だと参加者が50人程度に限られてしまうし、75歳以上の方だけが対象になりがちです。市からの補助金を使ってお土産を配るのも悪くないのですが、もっと多くの住民が楽しめる形にしたいと思いました。そこで、年齢を問わず、若い方からお年寄りまで参加しやすい音楽コンサートに切り替えたのです。
今日はジブリの曲やポップス、クラシックを織り交ぜ、午前は懐かしいメロディーを中心に高齢者向けに、午後はパプリカのような曲を入れて幅広い世代向けにしました。
申し込みは午前110人、午後130人ほどで、総勢240人です。
應田:
参加者の多さに驚きました。この参加率には、住民の皆さんの関心の高さを感じます。またコンサートに先だって敷地内の植栽やそこに訪れる野鳥の解説を役員が行うなど、理事会の活動を面と向かって伝えていく取り組みも素晴らしいと感じます。
なぜコンサート形式を選ばれたのですか? また、会場をホールの上の階にした理由は?
佐々木前理事長:
平等性を重視したからです。お弁当だと、食べられる方とそうでない方がいて、不公平感が生じやすいんです。音楽であれば、誰でも楽しめ、管理費からの支出も納得されやすい。
会場は上階の響きが良いので選びましたが、階段を上るのが大変な方はアクセスが困難です。午前に実施の1回目は下の会場で行うなど考慮しました。車いすの住民さんもいらっしゃって、とても喜んでくださいました。
このようなイベントは、楽しむだけでなく、防災の観点からも重要です。顔見知りが増えると、参加しない方を気にかけることができ、孤立を防げます。私たちのマンションは高齢化が進んでおり、単身世帯も多いので、そんな関係性が大切なんです。
應田:
防災とのつながりが深いんですね。
ヴィルフォーレ稲毛では自治会を解散し、管理組合がその機能を引き継いでいると聞きました。全国的に珍しいそうですが、背景をお聞かせください。
櫻井理事長:
はい、25年ほど前の団地南側の道路整備等がきっかけです。
当時は自治会と管理組合が別々にありました。防災で人は自治会、物は管理組合としていましたが、自治会の加入者が5割を割り、これで実際の災害時に対応できるのか疑問になっていたところに、道路整備でお互いの見方が異なり千葉市から意見をまとめてくださいと言われたことが契機です。夏祭りなどのイベントも自治会主導でしたが、担い手が減ってきました。そこで自治会を解散し、管理組合に統合しました。
管理組合の中に自治防災費会計を設けて月200円の自治防災費を徴収してイベント等をやってきましたが、その強制徴収が争点になり、千葉地裁、東京高裁、最高裁まで争いました。結果、「嫌がる人に強制は不可」という判決が出たので、標準管理規約に沿って環境防災費とし、「環境と防災」に限定して活動を続けています。
今日のコンサートも「環境防災イベント」として位置づけています。千葉市は全国で唯一、管理組合を住民代表として認めてくれ、要支援者名簿の共有も可能です。自治会がない分、行政との連携がスムーズです。
應田:
千葉市は管理組合を自治会と同等の組織として位置づける全国でも珍しい取り組みをしていますが、他のマンションでも優秀な人材が理事会と自治会に分散してしまう話はよく聞きます。自治会は自由加入ですので会員でない方は来ないでよいなどの区別も困難です。そのため統合のメリットはよく理解できます。高齢化が進む中、どのように住民参加を促しているのでしょうか?
佐々木前理事長:
65歳以上の方が半数を超えて高齢化率が高く、一人暮らしの方も増えています。イベントの趣旨は「小さな子供からお年寄りまで平等に楽しむ」です。コンサートは年1回ですが、防災訓練を兼ねた集まりも行っています。顔見知りが増えると、例えば来ない方がいたら「元気ですか」と声をかけるきっかけになります。
理事会は理事17名監事2名で、各棟から選出されます(団地型規約)。任期は1年ですが、熱心な元理事を「専門委員」として残し、継続性を確保しています。櫻井理事長は理事長職を通算10年務めていますが、いわゆる独裁ではなく、皆で支え合っています。
應田:
コアな理事会役員の長期在任は珍しいですね。コツは何でしょうか?
櫻井理事長:
信頼できる人に任せることです。理事は義務感が強いですが、専門委員は柔軟に携われます。また理事に過度な負担をさせないイベント運営も重要で、コンサートはプロのミュージシャンをお呼びするだけなので私たち理事の負担が少ないんです。昔の夏祭りみたいに鉄板焼きやテント張りは私たちには体力的に厳しいですが、コンサートなら気軽に参加できます。
コンサート選曲も住民の声を反映して、パプリカを入れてお子さんも喜ぶようにしたり、私の好きな「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を織り交ぜたりして、お年寄りから小さな子どもまで全ての住民の皆さんが参加したくなるように工夫しています。
應田:
なるほど、住民目線が伝わります。築35年でこれほど活発なコミュニティは珍しいと思います。またその活動を積極的に対外的にも発信されていて、各種メディアでもよくおみかけします。BORDER5でも過去に取り上げられています。

Part2へつづく
Part1はここまで。ヴィルフォーレ稲毛は管理組合法人化されていて、BORDER5評価の残りの2つの指標である組織運営力とメンテナンス&資金力でも満点の評価を得ています。
次回のPart2では、残りの財政や修繕の工夫についてもお届けします。
