
BORDER5優秀マンション紹介:「ヴィルフォーレ稲毛」理事会の挑戦 Part2 – 財政と修繕の戦略
前回のPart1に続き、BORDER5の認定マンション「ヴィルフォーレ稲毛」の理事会活動をご紹介します。
Part2では、財政管理と修繕工事に焦点を当て、櫻井理事長と佐々木前理事長のお話を引き続き伺って、経年マンションの持続可能性を支える仕組みについて、詳しくお伝えします。
経年マンションの持続可能性を支える仕組みとは
應田:
Part1でコミュニティの活力を感じましたが、それを支える財政基盤はどのようなものですか? 築35年であれば、大規模修繕工事を複数回経験されているはずです。
櫻井理事長:
財政は厳格に管理しています。我々のマンションは総戸数660戸で、全体共用部分の修繕積立金は現在約6億円。目標は12億円で、建築後80年位での建て替え時にセンターハウスの各種設備や共同配管、通路をリニューアルする費用をカバーできるようにしています。各戸200万円の手出しを避けるための長期ビジョンです。
組合としての方針を周知すべく今年6月に冊子「ヴィルフォーレ稲毛にようこそ!」を作成して全住民に配布しました。規約集より読みやすく、大きな字で書いてあります。リフォームの注意点から書き始めて、それだけでは面白くないので、ヴィルフォーレの楽しさのようなPR部分やビジョンを追加しました。
應田(冊子を見ながら):
組合のビジョンを明確化した冊子の作成と新規入居者も含めた全戸配布は素晴らしいアイデアですね。経年マンションでは重要になる”リフォームでやったらいけないこと集”が充実していて秀逸です。財政の透明性はどう確保されているのでしょうか?
佐々木前理事長:
決算書を詳細に作成しています。
科目を細かく分け、修繕費の内訳を明確にしています。例えば工事費を通常分と事故分に分け、理事会が手作業で仕分けます。管理会社からのデータを基に、抜け漏れがないようにこちらも理事会が手作業で仕分けます。住民から指摘が入るので、信頼を築けます。
全体管理費会計の年間支出6000万円で収支差は200万円程度。過去に管理費を値下げしているところ、昨今の物価上昇などで収支差益は小さくなっています。
應田:
管理会社との関係は? 伊藤忠アーバンコミュニティが長年担当ですが、委託契約における工夫をお聞かせください。
櫻井理事長:
大規模な工事は管理会社を通さず、理事会が直接発注して費用を抑えています。
人件費高騰に伴う委託経費の値上げも、先方からではなく、こちらから提案します。人件費の上昇を考慮して、管理員の給与をアップしたり、清掃業者に10%程の値上げをしたり、植栽業者も2年前に値上げしています。放置するといきなり3〜4割の要求が来やすいですが、こまめな調整で抑えられます。管理会社も喜び、関係が良好です。あってはいけませんが、手を抜かれるリスクも減ります。
應田:
管理会社は委託費を増額したくても理事会にはなかなか提案しにくい状況にあります。人件費高騰で改定を提案する場合は、過去の不足分に加えて、しばらくは改定困難であるということで、3割から4割といった大幅なアップが提案されがちで、それが他の委託でも一気に来ると理事会としてはお手上げになりがちです。[1] それにしても理事会主導の値上げ提案は珍しいですね。初めて聞きました。修繕工事の例についても教えてください。
佐々木前理事長:
今期はケヤキ並木のタイル全面補修を1300万円かけて実施しました。長期修繕計画にはないものですが、30年以上経って汚れて滑りやすくなったので、団地の顔として綺麗なものに作り直した次第です。若返った気分で、ヴィルフォーレのイメージアップです。
植栽に年間800万円支出しているのは、植栽こそヴィルフォーレ「森の街」を謳う団地の宝と考えています。全体の財源としては、駐車場収入を活用し、修繕積立を強化しています。次回大規模修繕は2028年の予定です。
団地型規約で各棟と全体の会計は別々に管理しており、建物部分では厳しく、外構部分では余裕があります。その中で、特定目的引当金、例えば埋設配管復旧など項目別に引当金を確保する形で設けて、必須の工事が発生したときにその枠から使うことで、毎年入れ代わっていく理事会がある日思いつきで高額支出を行うような流用を防いでいます。
應田:
法人化の理由をお聞かせください。20年前に実施されたそうですが。
櫻井理事長:
信用力の向上と金融メリットのためです。
毎年のように高額の工事発注をしていますが、法人格を持っていることで、相手からきちんと対応されると思っています。また、法人化で法人向けの高利預金が可能になっています。駐車場拡張を検討したのがきっかけ(註:法人化していないと購入した隣地の不動産登記はできない)ですが、車の減少で取止めにしています。
應田:
業務効率化も財政に寄与しているんですね。管理員の勤務時間を短縮されたと伺いました。
櫻井理事長:
はい、管理員の勤務は早遅の交代制で、早番勤務の8時半〜17時を9時〜16時に短縮しました。コミュニティホール使用の終了を1時間早めて、遅番も6時間勤務にしています。給与額は微増ですが、時給アップで、駅から遠い立地での人材確保に努めています。
朝の早い時間に車でピックアップにくる介護業者は時短で対応できなくなりますが、駐車場のゲートのリモコンを月100円で貸与し、ゲートに関する有人での対応を減らしています。リモコン原価5500円ですが、6〜7年持つので回収可能です。原価計算しながら合理化を進めています。
應田:
決裁プロセスも会社並みだそうですね。
佐々木前理事長:
最近、理事会主導の工事発注や物品購入での決裁書、管理事務所主導の工事発注や物品購入での申請書という二種類の仕組みを導入しました。
理事会や管理事務所で何々を発注や購入すると決めた後の流れが不透明になりがちなので、起案者・担当理事・理事長・管理事務所長の押印、発注や購入の実行者、口座振込での支払日までを順次フォローして、透明性を高めることを狙っています。理事長の手足を縛るようですが、櫻井理事長もいつか退任するわけで、理事長と管理事務所長の二人で物事を進めることの弊害をなくそうという思いです。
應田:
マンション管理士資格をお持ちの櫻井理事長の経験が活きているんですね。
櫻井理事長:
20年前に理事長経験6年で卒業試験のつもりで取得しました。一発合格です。再入学したので卒業はできていませんが(笑)。このマンションでの長い実務知識が役立っています。
すべては後世のためです。形として「枠組み」をきちんと残せば、良い運営が持続します
應田:
ヴィルフォーレ稲毛の運営はBORDER5の模範です。経年マンションの希望を感じます。本日は貴重なお話を聞かせて頂きありがとうございました。

最後に
インタビューの後2人に見送りを兼ねてマンションを案内して頂きましたが大きな敷地に無数にある高木全てに附番管理がされていました。何番の木の樹勢が衰えているから見てくれと植栽業者に指示できるわけです。
これまでの管理組合運営を支えてきた佐々木元理事長には、修繕工事の詳細の企画・実施確認に全て立ち会って自分の目で見て寄与していなければ絶対でてこない解説を熱く語って頂きました。
拝見した総会の決算・予算資料も詳細で、オーナー視点からみて資金使途などに納得ができるものです。必要な箇所に必要な補修をしてきた結果として、建物の外観は築年を感じさせない”新しさ”がキープできていました。理事会が手間をかけて管理状況ひいては中古市場での資産価値を維持する模範例だと考えられます。
