マンション管理

マンション管理の第三者評価を今後のための”ベンチマーク”として活用する

マンションの理事会で管理力の向上を目指して活動をされる方の多くが「今後も活発な管理組合運営を継続したい」「更なる管理力のアップを目指したい」と考え、そのための仕組みづくりを模索しています。

「自身が理事を退いた後も活発な組合運営を今後も維持するために、何を残せばいいのか?」そういったお悩みをお持ちの理事もいらっしゃるかもしれません。

 

今回お話を伺ったのは、1年という任期でありながらも多くの功績を残し、更に今後の管理力を維持するためのしくみづくりにまで取り組まれた、カワサキ・ミッドマークタワーの元理事、笠井さまです。

 

笠井さまの取り組み、今後のマンションに期待することについてお話を伺いました。

今後の管理力維持に期待も込めて第三者の評価を活用

BORDER5:まず、BORDER5に挑戦された理由はどのようなものだったのでしょうか?

 

笠井さん:就任中は管理規約細則などを含めた、ガバナンス強化に努めました。1年の活動を終えて、第三者のプロに客観的に評価してもらってもいいのでは?と思いました。

 

家庭の事情で次期役員の就任が難しい状況でしたが、「これくらいは今後も維持していこうね」という期待も込めました。第三者の客観的な評価を受けることで、今後のレベル維持のベンチマークとしてもらえるのではないかと思ったのです。

 

一定程度の基準をクリアしたという結果は、今後評価を維持していく上で、理事会が無関心、管理会社任せの運営に陥らないようにする暗黙の牽制機能にもなると思っています。

 

BORDER5:まだまだ管理状態を公開することのメリットを感じられない、抵抗がある、という声もありますが、管理力の公表について反対意見などはなかったのでしょうか?

 

笠井さん:認定されようとされまいと、自分たちの強味・弱みを知っておくことは重要だということを理事の皆さんに説明し、反対もなく診断を受けることになりました。

 

有名理事長さんなど、長く理事を務められる方もいらっしゃいますが、私のように個人的な事情で継続が難しいこともあります。とはいえ、同じ人が理事でないと管理力が継続できない組織であるというのもよくないと思いました。

 

こういった基準を一度クリアすることで、最低限このレベルを維持しよう、と思って欲しかったのです。

 

また、最寄りターミナル駅周辺には、タワーマンションがいくつもありますが、それらのマンションと今後張り合っていくためにも、管理力が秀でていることは対外的にもアピールしていくべきだとも思っていました。

健全なマンション管理を考えれば、修繕積立金は均等積み立て方式が合理的

BORDER5:今後、修繕積立金の徴収方法も均等積立に切り替えていきたいとお思いだと伺っています。今後、貴マンション管理組合で検討されるという、均等積立方式のメリットをあらためてお聞かせいただけますでしょうか?

 

笠井さん:修繕とは「どの時期にそのマンションに住んでも相応の快適性を保つこと」だと考えています。もちろん、そのために傷んだり壊れた部分を修理、設備をその時代に合わせたものに交換する必要があり、費用も掛かります。

 

ですが、その費用を貯蓄していくという目的を踏まえると、6~10年目に住んだ人と21~25年目に住んだ人でそれに支払う金額が異なるという事自体に疑問を感じました。既存の段階増額方式は不平等に思えたのです。

 

うちのマンションの区分所有者の変更(売却・購入による区分所有者の入れ替わり)は、年に2%程度です。仮に新築時の平均年齢を40歳、所有者変更で10歳若い方が購入されたとしても、30期には単純計算で平均年齢は60歳を超えます。

 

現時点で均等積立にした修繕積立金を支払えない方が、後々段階増額でアップした金額を支払えるとは思えません。今の段階増額のままでは、修繕積立金の負担が低い間だけ賛成しておいて、後々、高額になったら反対する、という方もいるかもしれません。合意形成が困難になるでしょう。

 

もし今後も段階増額方式で徴収するのであれば、5年ごとに修繕積立金の見直しの決議が不要なように、60年目までの各年積立金徴収額を細則に盛り込み、自動的に値上げとするべきでしょう。とはいえ、それでも年金生活を迎える頃に皆が支払える確実性には疑問も感じます。

 

BORDER5:結局トータルで必要になる金額、支払う金額は変わりませんもんね。

 

笠井さん:はい、値上げ対応で理事が時間をとられるのも非効率に感じます。自分が中古マンションを買う立場で考えても、前の所有者が築浅の間に楽した分の積立金の貯金の尻ぬぐいを後々カバーしなければならない段階増額方式のマンションは敬遠すると思います。近年のように、物件価格が高騰し、購入時の金額より高値で売却できるような傾向では尚更です。

 

マンション管理を健全にする観点で見れば、合理的な主張だと思うので、均等積立への移行は先延ばしすればするほど、楽する期間は伸びますが、その分切り替えた際の値上げ額も大きくなりますので、優先的に取り組むべきだと考えています。

意識したのは「公平性」「曖昧さの排除」「透明性」の3つ

BORDER5:昨年理事を退かれたそうですが、今後も管理力を維持できるよう、何か意識的に取り組まれたことはありますでしょうか?

 

笠井さん:まずは公平性を期すことです。居住者が生活する上ではおのずと共用設備を使用することになりますが、それらが健全な状態を維持できるのはその時々の理事が管理会社などと連携して汗をかいた結果です。

 

さまざまな事情はおありかと思いますが、十数年に一度のことなので自分の番の時は担当してほしいです。恩恵だけは享受し自分はやらない、というのは許容できません。どうしても理事を担えない、という方には理事会協力金の制度を導入しました。要は免除金ですね。

 

また、理事になってもその場にいるだけ、ということにならないよう、8人の理事全員に何かしらの役務を守らざるを得ない状況にすべく、理事会運営細則で「担当とそのタスク」を整理し、「例年発生するタスクを誰もやっていなかった」という事態を招かないようにしました。

 

管理規約については、曖昧な表現を削除するように変更しています。

「●●することができる」という表記を「●●する」「●●しなければいけない」という風にです。「原則は~(例外条件の具体的な記載もない)」「客観的(総合的)に判断し~」といった表記は、理事の主観や価値観、好き嫌いでも結論が変わってしまうことがあります。

 

ルールなのに、実際にやるかやらないかが理事会の裁量で決まってしまうのです。高い意識で取り組めばどんな表現であれやるのだろうとは思いますが、そもそもやるべきことは明確にすべきだと思います。

 

また、自身が理事を務める前の話ですが、ある住民が理事会の傍聴を拒否されたことがありました。その時は「後ろめたい理事会運営をしているからではないか」とも感じましたので、理事会の透明性を確保すべく、理事会の傍聴を拒否できないよう細則化しました。

やらない言い訳はいくらでもできる、だからこそ管理の見える化にも期待

BORDER5:管理の見える化がいろいろなかたちで進んでいますが、どのようにご覧になっていますでしょうか?

 

笠井さん:流れとしてはポジティブにとらえています。ただ、保険料に差をつけるなど、なんらかのかたちで差が出るような実効性を伴わないと計画倒れになってしまうのでは、という可能性も感じます。

ただ、マンションによっては、住民の無関心に悩んでいるところもあるでしょう。

 

実際、マンションの管理ってやらない言い訳はいくらでもできると思うんです。管理を見える化することで、定量的な「見える化」には効果があるのではないかと期待しています。

 

編集:BORDER5編集部
監修:さくら事務所マンション管理コンサルタント(マンション管理士)

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