コミュニティ

進化するマンション防災 / 目指すは、自助のみで成立する防災減災

これまで2回にわたって、関西の管理良好マンション「ミリカ・ヒルズ」のコミュニティ活動を中心にご紹介してきましたが、最終回の今回は「防災」について伺います。

(最初から読むにはこちら・・・コミュニティの基盤をつくるマンション内イベントとは?

 

2018年、大阪府北部地震で吹田市から一部損壊の被害を受けた「ミリカ・ヒルズ」。

 

この経験から、防災に対する取り組みはどう変わったのでしょうか?

 

今回も、ミリカ・ヒルズ団地管理組合法人の代表理事である髙垣 壮平氏にお話を伺いました。

大阪府北部地震で一部損壊、まずは建物の調査から

BORDER5:大阪府北部地震の際に、建物も一部被害に遭ったと伺っています。被害状況を確認するため、さくら事務所に建物調査のご依頼いただきましたが、第三者の診断を受けることになった経緯、理由をお聞かせいただけますでしょうか?

 

髙垣:被災当日から、団地管理組合法人では自主的に被災箇所の確認を進めていました。結果、約1800箇所におよぶ共用部のクラックや欠損、陥没、隆起などの事象を確認しました。危惧していたのは、マンションの主要構造部への影響です。

 

専門の知識を有する第三者機関に被災診断を依頼し、主要構造部への影響がないことを確認した上で表面的なクラックなどの修繕を早期に実施する必要性があると考えました。

 

これは、マンションの適正な資産価値の1つにハードとなる建物自身の評価があるからです。

 

その後、吹田市から一部損壊の認定を受け、2015年に長期修繕計画の改訂に携わっていただいた「さくら事務所」に被災診断を依頼した流れがあります。

 

幸い「主要構造部への影響はない」との診断結果を得ましたので、これをベースに理事会や総会でコンセンサスが得られるシナリオ作りを行いました。

被災を風化させないための取り組み

BORDER5:大阪府北部地震前後で、災害に向けての取り組みに何か変化はあったのでしょうか?

 

髙垣:内閣府も主導していますが、「ミリカ・ヒルズ」強靭化への施策を進めており、その一環として防災減災対策への取り組みは先の地震被災とは別軸で行っていました。

 

また、大阪府北部地震の被災経験を風化させない取り組みとして、(昨年の地震後に入居する方もおられますので)被災直後の様子などが分かる情報の共有を進めており、毎年6月に防災訓練を実施するようにしています。

 

訓練の居住者参加はもちろんですが、ここでも団地管理組合法人理事会が防災会として災害対策本部を設置するなど、災害時や非常時における管理規約細則の改訂を行い「居住者を先導する側の訓練」も同じタイミングで並行して行っています。

 

居住者の参加意識も大事ですが、極論「災害時の優先行動だけを居住者には開示共有し、あとは団地管理組合法人防災会からの指示を待って、それに従うこと」を訓練の中では繰り返し伝えています。

 

優先すべきは、非常時の体制と指示系統の確立です。

組合として備蓄はせず、代わりに居住者に備蓄を促す

BORDER5:「管理組合として非常食や飲料水の備蓄はしないことを明言し、代わりに居住者に対し7日間備蓄の啓蒙を周知」というかたちをとっていますが、なぜこのようなシステムになったのでしょうか?

 

髙垣:前提として、「ミリカ・ヒルズ」は633戸の大規模マンション、その居住者数は約2500人です。約2500人が1日3回の食事をし、これを7日間となると、ペットボトルの水だけでも500mlのペットボトルが約10万本(約1000万円)必要となります。

 

水の試算だけでもこの状況であることを踏まえ、団地管理組合法人としては水や食料などを備蓄しないと言い切ることで、居住者に備蓄を促しています。

 

中途半端な回答が居住者の減災への意識を削ぐので、ここは言い切るぐらいが適切であると考えています。

 

BORDER5:災害時の避難についてはいかがでしょうか?

 

髙垣:地震などの災害時では、原則屋内待機(自室にて待機し、団地管理組合法人防災会からの指示を待つように周知しています)。

 

避難所に避難されても良いですが、地域の特性上、避難所は大勢のお年寄りで埋め尽くされることが想定されます。自室であれば避難所における最大の課題 であるプライバシー考慮の必要もありませんし、クラッシュシンドロームからも解放されます。

 

「大規模マンションの居住者は避難所に避難してはならない」が地域共生の上では唯一守らなければならない遵守事項であると思うのですが、避難所への避難を声高に叫んできた過去の怨念からまだ逃れられないところもあるようです。

 

吹田市行政に頼らない防災減災への取り組みこそが「ミリカ・ヒルズ」における防災システムのドクトリンと言えます。

安否コールシステム導入で安否確認を効率的に

BORDER5:安否コールシステムですが、ここでも【自助の範囲内で「安否コール」システムへの回答】とされていますね。9割の方が登録されていると伺いました。

 

髙垣:組織は最小且つ効率的であれば良く、意思決定に係る時間も短縮できます。

安否コールの導入も当初は従来からの各戸ドアを叩く安否確認方法を実施していましたが、633戸、居住棟が6棟、1階~15階までと広範囲に及ぶこの安否確認を如何に効率的に、如何に確実に、如何に限られたリソースで、がポイントでした。

 

「ミリカ・ヒルズ」で導入している安否確認システムは、アドテクニカ社が開発した安否コールを使用しています。自助の範囲内で地震などの災害が生じた場合、自動的に安否コールから組合員へ安否確認メールが配信されます。

 

この時の設問のなかに、要援護者支援要請についての確認項目があります。要援護者支援要請の要望があった専有部にのみ限られたリソースを振り分ける事が出来るのが最大のメリット。電磁配信で直接対象住戸を確認できる仕組みは安否確認システムならではと言えると思います。

 

先の大阪府北部地震後、登録者数は増えましたし、マンションコミュニティイベントやマンションのインターネット事業者リプレイスの際に無償提供されるwifiルーター引渡し時の条件として安否コールへの参加登録を必須としたことも、更なる登録者数増に繋がったと言えます。

 

BORDER5:先日、関東首都圏では度重なる台風でマンションも被害を受けました。水害についてはいかがでしょうか?

 

髙垣:「ミリカ・ヒルズ」は、海抜40メートルに位置しており、吹田市が発行するハザードマップからも水害に合う可能性はありません。

 

ですが、吹田市全域や大阪府全域を見渡せば、海抜1 0メートルでも大阪市内は水没しますし、吹田市においても市域南側は水没地域が多い状況です。

 

これらを踏まえ、災害の初動は比較的被害の少ないであろう吹田市北部への支援は望めないと考えており、自助の初動は「屋内待機」と「安否コールへの回答」としています。

防災訓練で大事なのは、情報を「伝える癖」「集約する癖」をつけること

BORDER5:自助共助のバランスについて明確にされていることが、素晴らしいと思いましたが、このように振り切られたきっかけは?

 

髙垣:団地管理組合法人防災会として、自助の初動および共助の初動の確立は早期に且つ明確に示す必要があって、これらを踏まえて居住者には先ず何をどうすれば良いのかを繰り返し伝えてあります。

 

何でもそうですけど、指示する側と指示される側の両極に分かれる場合、指示される側は指示する側からの明確且つ分かり易い指示であればあるほど、受け入れやすいと考えています。

 

なので、防災訓練において「避難訓練は推奨していません」極論ですが、ほっておいても危険を感じれば人は避難するものです。

 

それよりも大事なのは情報を上げる癖を付けることと、情報を集約する癖を付けることだと考えています。

 

この辺りは、竣工当時の防災訓練から同じことを繰り返し行っています。

目指すは、自助のみで成立する防災減災

BORDER5:これから、取り組もうと思っている防災対策や、今後もっとこうしたい、と思っていることはありますか?

 

髙垣:目標は、吹田市行政等の支援を仰がずとも自助のみで成立する防災減災への施策です。

 

徳島県佐那河内村との防災協定ならぬ、相互応援協定もこれらを踏まえての行動です。

 

また、海抜40メートル地域なので直接水害はありませんが、間接水害は起こり得ると考えていて、「ミリカ・ヒルズ」周辺が水没した場合、「ミリカ・ヒルズ」も孤立することになりますのでこれらを想定した水害対策を検討しています。

 

あと、昨今流行りのゲリラ豪雨や先日の都内で起きたマンション電気室への浸水対策として止水板の検討や、雨水排水管への負担を軽減するビオトープの導入(二次利用も望める)、防災対策用途としての公衆電話の設置や、防災無線の導入、民間マンションとして地域被災者の受け入れ拠点としての整備などを検討しています。

都内の先進的なマンション管理組合とも協調

BORDER5:多岐に渡るお話をお聞かせいただきました。最後に、「ミリカ・ヒルズ」のマンション管理の成功の秘訣、どんなところにあったとお感じですか?

 

髙垣:成功しているかどうかは私からの回答は差し控えさせていただきます。「ミリカ・ヒルズ」もまだ道半ば、都内には先進的な取り組みを行っている管理組合が多く存在することを知っています。

 

そういったマンション管理組合と良い協調関係が築けていることも、「ミリカ・ヒルズ」でのマンション管理がうまく流れる為の布石になっていると言えます。

 

ある程度属人化している現在の体制がポイントであることは明白なので、この体制が解除されたとしても変わらなければその時が成功ではないかと思いますね。

 

BORDER5:髙垣さん、ありがとうございました!

 

参考「ミリカ・ヒルズ」公式サイト

 

編集:BORDER5編集部
監修:さくら事務所マンション管理コンサルタント(マンション管理士)

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