マンション管理

長嶋修が提言!中古マンション市場健全化への3つの課題

持続可能性の高い管理良好マンションを厳選してご紹介するBORDER5の取り組みは、これまで目に見えなかったマンションの管理力見える化を実現するプロジェクトとして動き出しました。

 

一方、自治体や業界団体も動き出そうとしています。

 

東京都は来年4月から対象となるマンションに管理状況の届け出を義務付けます。今回対象となるの1983年末以前に建てられた、6戸以上のマンション。届け出項目も10月末に確定する見込みです。

 

業界団体もマンション管理状況のデータベース構築を検討する取り組みに向け動き出したようです。

 

中古マンション購入者が契約前に管理状況も判断材料の1つとできるよう、5段階でランク付けする方向で検討を進めています。とはいえ、まだまだ国内のマンション市場は大きな問題も抱えています。

 

マンション管理力の見える化という変革に加えて、よりマンションの未来をより明るいものにするために、これからどうしたらいいのでしょうか?

 

ここでは、さくら事務所会長、長嶋修がマンションの未来に向けた3つの課題とそのための政策を提言します。

マンション管理組合の情報開示を義務化へ

アメリカでは中古マンションを契約するにあたって、各種議事録を含むマンション管理にかかわるあらゆる書類が送られてきます。

 

契約者は膨大な書類を確認し、納得しました、という趣旨でサインを行います。事前に情報を開示し確認させることで、良いマンションとそうでないマンションの区別がつかない「レモン市場問題」は起こりません。

 

日本では、国土交通省が公益財団法人マンション管理センターを通じて、管理組合の運営状況や修繕履歴等をマンション管理センターのコンピューターに登録し、登録情報の一部をインターネットにより公開するマンション履歴システム「マンションみらいネット」へのマンション登録を推奨しています。

 

しかし、任意登録であるため、まだ少数しか登録されていません。

 

またここでは「組合運営の概要」「収支会計」「管理規約」「修繕計画」「修繕履歴」「保管書類」などが登録できますが、個人情報保護の観点から「総会や管理組合の議事録」の登録がないため、マンションの全容は残念ながら見えません。

 

確かに、総会や管理組合の議事録など、一歩踏み込んだ情報を誰でも閲覧できるようにするためには、問題や課題も出てくるでしょう。

 

そこで、先に挙げたアメリカの例のように、対象を「契約者など利害関係者のみ」にして、一定の期間を設けて閲覧できるようにすればよいでしょう。

 

その上で、契約者にとって何らかの懸念があれば、一定期間中は再交渉ができるような仕組みに、法改正を進めればいいと思います。

 

そもそも中古マンション市場の「レモン市場問題」を解消し、健全に発展させるためには、一定のマンション管理の情報は登録を義務付けるべきです。

金融機関はマンションの管理状態も「担保評価」に

さらに、金融機関がこうした情報を踏まえた担保評価ができる体制を整える必要があります。現在、金融機関の中古マンションに対する担保評価は多分に形式的です。売買事例やデータ提供機関の評価額を参照する程度です。

 

さらにこうしたマンション自体の評価ではなく、借入者の年収や勤務先・勤続年数など、個人属性を重視しています。

 

中古マンション市場を玉石混交のレモン市場から脱却させるためには、金融機関が前出のマンション管理に関わる各種書類を読み解く能力が必要です。

 

金融庁がこのことに気づき方針を打ち出すか、個別の金融機関単位で、管理組合のレベルを評価する機能を持つべきでしょう。

 

東京都は、管理組合の明確な規定がなかった、83年以前に建設されたマンションを対象に、修繕積立金や耐震診断の結果の報告を義務付ける方針を打ち出しました。

 

自治体によるこうした取り組みは一歩前進です。でもこのことが金融機関の担保評価、ひいては不動産市場における評価に結び付かなければ、その意味や意義は希薄になってしまいます。

マンションの空き家問題に特化した制度設計を早急に

2015年5月、いわゆる「迷惑空き家」について、固定資産税を6倍にし、自治体が立ち入りや助言、指導、勧告、命令したり、行政代執行(強制執行)で空き家を取り壊し、所有者に費用を請求できるという「空き家対策法」(空家等対策の推進に関する特別措置法)が施行されました。

 

しかし、これは主に一戸建てを想定した法律で、マンションは建物全体が空室で、老朽化が進んでいない限り、空き家対策法の対象外です。

 

そもそも「迷惑空き家」に指定できたとしても、「景観を損なっている状態」や「生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態」に認められる措置は、「修繕」や「立木竹の伐採」に限られます。

 

また、2016年度の税制改正では「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」の制度が創設されました。

自宅の売却を前提としていた「譲渡所得の3 0 0 0万円特別控除」が、一定の要件を満たせば、相続した空き家を売却する場合にも適用されることになりましたが、この制度も、マンションなどの区分所有建物は対象外。

 

さらに、売却時点で建物が耐震性を確保していることが要件になっており、旧耐震基準の家屋は、耐震改修して売却するか、解体して更地として売却することになります。

 

海外の例を見てみましょう。

イギリスでは2 0 0 6年から「空き家管理命令」を始めました。2年以上空き家となっている住宅を、所有者の同意なしに、所有者に代わって地方自治体が必要な改修を施した上で賃貸し、賃料によって改修費用を回収する制度です。

 

地方自治体は住宅を占有できますが、所有権は地方自治体に移転しない仕組みです。

 

またイギリスでは13年、空き家に対する地方税が改正され、「すべての空き家には軽減税率を適用しない」「2年以上空き家で、かつ家具がほとんどない住宅については、割り増しの地方税を賦課できる」としています。

 

こうした方策案でもすべてのマンションの空き家問題解決につながるとは思えませんが、日本もマンションに特化した空き家対策を真剣に検討していくべき時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

 

編集:BORDER5編集部
監修:さくら事務所マンション管理コンサルタント(マンション管理士)

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