マンション管理

管理良好マンションは大規模修繕工事にどう取り組んだのか?

東京都日野市の管理良好マンション「ニューロシティ」。2003年8月竣工、15階建て、6棟、総戸数707戸という大規模マンションです。

 

共有財産の維持を目的とする管理組合と、居住者相互の親睦を目的とする自治会、この2つの密な連携・協力もあり、盆踊りや防災訓練などのイベントが円滑に行われています。

 

本サイトに掲載されている管理良好マンションの中でも、連携とチームワーク、更に管理力の継続性は特筆すべきものがあるでしょう。

 

今回は、管理良好マンション「ニューロシティ」が大規模修繕工事にどう取り組んだのか?ご紹介します。

専門委員会発足のきっかけは東日本大震災の外壁タイル剥離

2015年から1年の工期で行われたニューロシティの大規模修繕工事、その準備は2012年から始まっていました。

 

東日本大震災の際、外壁タイルの剝がれや浮きが散見されたことから、築10年目を迎える前に、理事会の外部組織として大規模修繕の専門委員会を立ち上げ、建物の調査を行ったのです。

 

調査の結果、10年間の無償アフターサービス範囲となり得る箇所も見つかったため、「アフターサービスの補修と大規模修繕工事、一本化した方が合理的だろう」との判断から、施工は元施工のグループ会社に依頼することになりました。

 

翌13年から調査に着手、打診調査によってタイル浮きの箇所と数を把握、14年には工事内容の精査をしました。分譲時の長期修繕計画は、とりあえずの「案」に過ぎず、建築費の高騰や消費増税などももちろん考慮されていません。

 

大規模修繕工事には莫大なコストがかかるため、本当に必要な工事は何なのか、把握する必要がありました。

 

工事では、足場がなくてはできないものを優先し、特に外壁タイルの補修とコンクリートのひび割れ補修には重点を起きました。

 

万が一、外壁タイルが剥離、落下して事故に繋がらないよう、外壁タイルの補修は安全性を考慮し、特に優先順位をあげたのです。

 

打診調査で少しでも危ないところは、全部剥がして新しいタイルに張り替えました。タイルの補修は一般に、タイルに穴をあけモルタルや樹脂系の接着剤を注入する工法が主流ですが、空洞部分にうまく接着剤が入り込んだかどうかわからず、検証もできないため採用しませんでした。張り替えた方が費用はかさみますが、コストより将来的な安全を選択したのです。

 

他、コンクリートの外壁のひび割れなど、直すべきところは最善の方法で徹底的に補修しました。

 

このコストアップ分は、修繕計画で予定されていたものの、建物検査の結果、緊急性が低く補修不要とされた廊下やバルコニーのシート交換、屋上の防水工事などを見送ることで予算内に収めています。

住民の快適性か?コスト優先か?

大規模修繕工事費用の中でも、大きな割合を占める仮設工事(足場)。

 

ニューロシティの大規模修繕工事では、廊下側には一般的に用いられる低コストの「枠組み足場」を採用し、バルコニー側は移動昇降式足場(リフトクライマー)を採用しました。

 

確かに枠組み足場の方が安価ではありますが、バルコニー側もそれにしてしまうとシートに覆われて日照が制限されてしまいます。防犯上の不安もあります。日常生活への影響は大きいでしょう。

 

そこで、専門委員会は、そのコスト(リフトクライマー採用による負担増)と工事期間中の住民の快適性を天秤にかけたのです。この選択は、住民にも大変好評でした。

 

リフトクライマーは昇降中に音楽が鳴るため、自分の部屋に近づくのがわかるといった利点もあります。

工事が終わればそこを去っていくので、日常生活への影響も極力抑えることができました。また、工事にあたり、住民とのコミュニケーションも重視しました。

 

できるだけ情報を開示することが重要と考え、複数回の説明会だけでなく、お祭りなどイベントの際には施工会社のブースを設けて工事内容をプレゼンしてもらうなどの工夫も行いました。

 

工事中は進捗状況を掲示板で共有しました。バルコニーに洗濯ものを干してもいい日を示す「洗濯情報」をエレベーター内に貼り出し、意見箱を設置し寄せられた意見に丁寧に回答するようにも努めました。

大規模修繕工事後、すぐに長期修繕計画の見直しに着手

すべての工事が完了したのは16年3月、専門委員会の設置から3年3カ月経った頃でした。

 

大規模修繕工事が終了して、ひと段落・・・と息つく間もなく、理事会は動きます。工事終了後すぐに工事の総括を行い、更に長期修繕計画検討委員会を設置、翌年1年をかけて、長期修繕計画を徹底的に見直したのです。

 

もともと、最初の大規模修繕工事終了後には、長期修繕計画の見直しを行う予定でしたが、当時の理事長が一気に押し進める形で、12月の総会では修繕積立金見直しの承認にまでこぎつけました。

 

当時の修繕積立金の徴収方法は、分譲時に設定されていたいわゆる「段階増額方式」で、経年ごとに積立金額が増えていく方式でした。

 

今回の大規模修繕は一時金や借入なしで実施できましたが、2回目で積立金は枯渇、3回目には18億8000万円、4回目は35億円も積立金が不足することがわかったのです。

 

長期修繕計画見直しの末、従来の段階増額方式から徴収方式も「均等積立方式」に変更、少なくとも築50年まで一時金徴収や借入なしで、必要な大規模修繕が行える計画を作り上げました。

 

マンションの持続可能性を見据えて積立金は平米112円から201円へと、部屋ごとに毎月約1万円の値上げを有効投票数の90%の賛成で可決したのです。

管理力アップを加速させたのは、良好なコミュニティ

このような流れは、継続的かつ積極的に活動する理事会や専門委員会による活躍がもちろん大きいのですが、本マンションの大きな特徴として、お祭りの開催などマンション内コミュニティ形成を担当する自治会の関係が良好なことも大きく影響しているかもしれません。

 

大規模修繕工事の際も、自治会のさりげないバックアップがあったようです。

 

連携とチームワークでここまでの管理状態を築いたニューロシティですが、その背景には、理事会だけの力だけでなく、自治会の協力も大きいでしょう。

 

「理事会と自治会が両輪となって、物事を進めることができるのが、ニューロシティの最大の特徴」と当時の理事長は語っています。

 

編集:BORDER5編集部
監修:さくら事務所マンション管理コンサルタント(マンション管理士)

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