長嶋修が解説!管理組合が知っておきたい大規模修繕工事のリアル
さくら事務所では大規模修繕工事に関するお問い合わせをマンション管理組合の方から多数いただきます。
マンションを長く健全な状態で維持するための大規模修繕工事ですが、談合やバックマージンなどが業界に横行した混乱状態です。
どんなマンションも大規模修繕工事は避けられないもの。
業界の構造、仕組みをある程度理解しておくことは、修繕積立金の無駄な支出を抑えるためにも有効です。
ここでは、さくら事務所にご相談いただいた事例も併せて、大規模修繕工事の裏側の危険なカラクリについて解説します。
管理会社の大規模修繕工事が高くなる構造とは?
これまで多くのマンションでは、管理会社、あるいは管理会社経由で関連の工事会社が提出した大規模修繕工事の見積もりを、そのまま受け入れて進めてきました。
ですが、このルートで出てくる工事費はどうしても割高になりがち。
なぜなら、管理会社が直接工事を受注すれば、そのまま管理会社の売上・利益となり、関連会社が受注すればその一部は管理会社に還元され、やはり管理会社の売上・利益となるからです。
そもそも相見積もりを取らなければ競争原理も働きませんので、当然といえば当然かもしれません。
また、管理組合の負担をより大きくしているのが「オーバースペックな工事の提案」です。
管理会社による劣化診断は、外壁塗装や屋上防水、鉄部塗装など、長期修繕計画で予定されていた工事をそのまま行う前提で行われます。
しかしながら、その中には不要不急の工事がいくつも含まれていることがよくあります。大規模修繕工事は本来、長期修繕計画通りに、12年目、24年目などに進めていく必要はありません。
あくまで計画は机上のものです。
部位によってはまだ劣化が進行していないため、15年目、18年目などに先延ばしすることが出来る可能性もあるのです。
ですが、「先延ばしできる工事はないか?」を尋ねると、「それで万が一でも雨漏りしたらどうするのですか?資産価値は落ちますし、理事会の責任を問われる可能性がありますよ」と言われてしまいます。
たいていの理事会は不安に駆られ、自己保身から提案通りの工事をしてしまうというのがお決まりのパターンです。
また、残念ながら管理組合と管理会社は利害が一致しているわけではありません。
管理会社は、管理組合がいくら払えるか?(今いくら積み立てているか?)ももちろん知っています。
そんな中、わざわざ管理会社の売上が下がる修繕の先延ばしの提案を、管理会社から申し出ることは構造的に難しいのです。
「無料の劣化診断」はなぜ無料なのか?
施工会社による劣化診断は、一般に無料で行われています。本来、専門知識を要し、それなりのコストがかかるはずの劣化診断。なぜ無料なのでしょうか?
それは、その会社がその後の工事受注を期待しているからにほかなりません。したがって見積もりの中身について、その修繕部位やコストが妥当かどうかは、組合がきちんと検討する必要があります。
こうした問題点を把握して、複数社に見積もりを依頼する管理組合も増えてきましたが、管理会社を通して相見積もりをとるならば意味はありません。
多くの場合で、出来レースとなってしまうのです。
形だけの相見積もりを行うものの、結局は関連会社が受注できるよう、事前に他社の見積額を知らせたりする便宜を関連会社に対して図ったりします
透明性の高い施工会社選定、設計監理方式を選択する組合も
このような背景の中で出てきたのが、管理会社に工事見積もりを仕切らせるのではなく、設計事務所やコンサルティング会社といった第三者に間に入ってもらい、見積もりから比較・アドバイス、工事監理(チェック)まで行ってもらう方式です。
この方式は管理会社と工事会社が分断されるので、一見公平な仕組みのように見えるのですが、残念ながら、実はここにも落とし穴があります。
間に入る設計事務所やコンサルティング会社、工事会社が裏でつながっていて、結局は出来レースの見積もりが行われている場合があります。
「そんな低価格でコンサルティングを引き受けられるわけがないだろう」といった水準の見積もりであれば、まず工事会社からバックマージンがあると思っていいかもしれません。
例えば、50〜1 0 0戸規模のマンションならコンサルタント料が4 5 0万〜5 0 0万円かかるところ、1 5 0万〜2 0 0万円といった非常に安価な設定で気を引きます。
コンサルタント料を割安に見せて管理組合との取引をスタートさせ、自らが取引の主導権を握ったところで割安分をはるかに超えたバックマージンを上乗せした工事見積もりを工事会社に出させ、工事会社から裏金をもらいます。
こうした管理組合や設計コンサルタントは落札業者を持ち回りで指名し、工事費の10%から20%をバックマージンとして受け取っているともいわれています。
先ほどの規模のマンションで大規模修繕工事に5000万~1億程かかるとすると、500~1000万が裏金として設計会社やコンサルティング会社に渡されているわけです。
このバックマージンは結局、管理組合が支払う工事費から出ているわけで、本来の工事費はもっと安いはずです。こうしたケースでは、バックマージンを渡そうとしない工事会社は、管理組合に紹介されることはありません。
見積もりに参加している工事会社が談合しており、今回はどこが仕事を引き受けるかあらかじめ決めていることも多いようです。
住民の味方のはずの、管理会社や設計コンサルタントがすべてを主導しているため、その中身が見えにくいという特徴があります。
大規模修繕工事選定で横行する談合、その手口とは?
大規模修繕工事を仕切る設計会社・コンサルティング会社が、建設会社と談合してリベートをもらっているケースでは、工事を受注する会社があらかじめ決まっています。
では、どうやって狙い通りの工事会社Aに受注させるのでしょうか?
例えば他の工事会社の見積もり額をA社にあらかじめ伝えておくことで、A社は必ず最安値の見積もりを提示することが可能になります。またA社以外には、過大な数量を前提として見積もりを出させることもあります。こうすれば、他社より少ない数量で見積もりを出すA社が勝つのは当然です。
例えばA社以外には20%多い工事数量を提示しておけば、A社より20%高い見積もりが出てくるわけです。もちろんこうした工作は、管理組合に知られないよう、極秘裏に行います。
マンションに工事積算の専門家がいるか、別途で専門的なチェックでも入れない限り、管理組合には全くわかりません。
こうした事例は、残念ながらマンション改修業界の人間であればよく耳にする話ですが、大規模修繕工事を舞台とした不正としては、まだまだ氷山の一角と言わざるを得ません。
従来、設計事務所やコンサルティング会社による「設計監理方式」は、高額で不透明なマンション管理会社元請方式の大規模修繕工事に対抗することを目的の一つとして発展してきたものです。
しかし、いつのまにか裏で悪事に手を染める風潮・慣行が蔓延してしまい、マンションの大規模修繕を取り巻く業界は混乱状態にあります。
この「不適切コンサルタント」の定義には、設計事務所だけでなく、一部のマンション管理士事務所も含まれていると言われており、「適切コンサルタント」を探すほうが大変な状況です。
それほど、昨今の大規模修繕工事には大きなリスクが潜んでいます。
工事に利害関係のない第三者の登用も
もちろんこうしたことは違法ではありませんが、「第三者性」をうたっておきながら、結局は裏取引で管理組合に高額な工事費を負担させています。
そもそも見積もりや工事内容をチェックする対象である工事会社からバックマージンを受け取っている癒着構造の中で、果たしてコンサルタントとして言いたいこと、本来言うべきことがきちんと言えるのでしょうか?
バックマージンをもらっている工事監理者には厳しいチェックを期待するのは難しいでしょう。
大規模修繕工事を進める上で、バックマージンなどの癒着構造がない、1 0 0%管理組合の利益を追求してくれる第三者を立てることも検討されてみてはいかがでしょうか。
編集:BORDER5編集部
監修:さくら事務所マンション管理コンサルタント(マンション管理士)